Hola México! by JDOX 2026 3月号
Vol.12 : メキシコが紫色に染まる日

メキシコが紫色に染まる日
2月から3月にかけてのメキシコシティの風物詩と言えばハカランダの花です。薄紫色の花が咲き誇る様子は毎年のお楽しみでありましたが、今月お届けするのは別の「紫色」のお話です。
3月8日は「国際女性デー」です。紫色を象徴にしたこの日は、世界各地で女性の権利について考える日。中でも、メキシコではこの日が特別な意味を持っていると思います。

背景にあるのは、女性に対する暴力。とりわけフェミサイド(女性であることを理由とした殺害)の深刻さです。メキシコでは現在も、1日に10人前後の女性が殺害されているというレポートもあるほど。多くの事件で加害者はパートナーや元交際相手など、身近な男性だと言われています。
その根底にあるのが「マチスモ」と呼ばれる男性優位の価値観です。男は強く、家庭では主導権を握るべきだという考え方は、女性は男性に従属するもの、支配されるものという意識につながります。
もちろん、すべての家庭がそうではありませんが、実際その影響を身近に感じることもあります。夫の母方は7人きょうだいのうち5人が女性なのですが、結婚経験のある4人は全員、夫の暴力が原因で離婚。シングルマザーとして子どもを育てるという道を選択したからです(未婚の叔母も結婚をしなかった理由の一つに暴力的な父親による虐待を挙げていました)。
こうした、メキシコ人女性が長年置かれてきた状況に対する抗議として、2020年の国際女性デーには「Un día sin nosotras(私たちがいない一日)」という女性によるストライキが行われました。女性たちは仕事や学校に行かず、あえて社会から姿を消すことで「もし女性がいなくなったら社会はどうなるのか」を示そうとしたストライキです。
実は私、その日は地方出張のため飛行機に乗る予定があったのです。出発前にとても不安になったのを覚えています。「もし本当に女性がいなかったらどうなるのだろう。客室乗務員も地上係員も足りなくなるのではないか。飛行機は遅延するのではないか」――そんなことを考えながら空港に向かいました。実際にはすべての女性が仕事を休んだわけではなかったため、私も無事に飛行機に乗れたのですが、それでも「この社会から女性がいなくなったらどうなるか?」を想像させるには十分な経験でした。
このストライキだけでなく、メキシコでは女性によるデモの影響を考えることがたびたびありました。あるフェミサイド事件をきっかけに2019年に起きたデモでは、首都の大動脈であるレフォルマ通りからソカロへ向かって多くの女性たちが行進をしていました。それがちょうど帰宅時間と重なったため交通が大きく混乱しました。SNSでは「子どものために帰宅を急ぐ女性の足を止めて、何が女性の権利だ」という批判も見られました。立場が違うと見え方も違います。女性の権利をめぐる議論は、女性の間でも必ずしも一枚岩ではないのだと感じた瞬間でした。
一方で、メキシコは政治制度の面では世界でも珍しいほど大胆な改革を進めている国でもあります。候補者の男女比を半々にする「パリテ(男女同数原則)」が導入され、国会では女性議員がほぼ半数を占めています。そして2024年には、初の女性大統領クラウディア・シェインバウムが誕生しました。終わりの見えない女性に対する暴力という深刻な現実と、政治の世界で進むジェンダー平等。この2つの風景が同時に存在していることで、メキシコ社会は複雑になりつつも、希望のある世界になっているような気がしています。

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