Hola México! by JDOX 2026 4月号
Vol.13 : かわいいだけじゃない!

可愛いだけじゃない!

渋谷にメキシコ発のゆるキャラ「Dr. Simi(ドクトル・シミ)」のポップアップが登場!そんな驚愕のニュースをインスタで見ました。メキシコ在住者にはおなじみのこの白衣を着たオジサンはメキシコを中心にラテンアメリカ各国で9600店舗以上を展開するFarmacias Similaresというジェネリック医薬品を販売する薬局のマスコットです。
単に薬を販売するだけではなく、低価格の診療所(Consultorio)を併設しているのが特徴で、患者は50ペソ(450円程度。1ペソ9円で換算)程度の診察料 を支払えば、その場で医師の診察を受け処方箋をもらい、隣接する薬局で薬を購入できるシステムです。
日本ではぴんとこない、こうしたビジネスが成立する背景には、メキシコの公的医療制度の構造があります。メキシコでは、社会保険制度としてIMSS(一般企業向け)やISSSTE(公務員向け)という保険が整備されています。加入者は原則として上記の保険制度でカバーする公立病院では無料で医療サービスを受けることができるのです。
素晴らしい医療制度!と思われるかもしれません。でも実態としては、公立病院の利用はハードルが高いです。まず、受診するのにひと苦労します。というのも、診療時間帯が事前に振り分けられているのです。例えば、私が初めてIMSSの病院に登録に行った際「会社員ね。じゃあ午後班で。だって働いてるでしょう?」謎です。具合が悪くなったら休んで病院に来るものじゃないのか…?とまず最初に大きな疑問がわきます。
当然、病気は時間を選んでくれません。そうなると予約なしでの受診となりますが、これがまた長時間待たされる。そのため、病院前には早朝5時くらいから人が並んでいます。病気なのに…。
さらに診療プロセスも段階的で、初診は「一般診療」に集約され、専門医の受診には改めて予約が必要となるのです。つまり、最初はなにがあっても内科医が診察。様子を見て皮膚科だったり産婦人科に振り分けるという形です。設備や医薬品の供給もエリアごとの差が大きく、場所によっては薬の欠品といった慢性的な問題を抱えていることもあります。

一方で、私立の医療機関はアクセスの自由度が高く質は高いですが、費用は全額自己負担となります。これが高い。私は妊娠~出産まで私立の産婦人科医に担当してもらっていたのですが、12年前の相場で毎月の診察料は700ペソ(6300円)でした。おそらく今はもっと高くなっていることでしょう。
このように、公的医療は「安いが使いにくい」、私立医療は「使いやすいが高い」という両極端なのがメキシコの医療です。その隙間を埋める形で誕生し、爆発的に店舗数を増やしたのがFarmacias Similaresのモデルというわけなのです。低価格さらにアクセスがよいこのサービスはメキシコの庶民を支えています。実際私も、風邪や腹痛の際には例外なくFarmacias Similaresにお世話になっていました。
Dr. Simi、見た目はかわいいゆるキャラですが、その裏側には、「医療へのアクセス格差」というメキシコの社会課題があるのです。

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